ミヒャエル・ボレ(Michael Bolle)
ロバート・ボッシュGmbH取締役会メンバー

マイク・マンスエッティ(Mike Mansuetti)
ボッシュ北米法人社長

2021年1月11日
CES国際家電ショー2021にて放映


本稿は実際の内容と異なる場合があります。


皆様、おはようございます。お住まいの場所によっては、「こんにちは」または「こんばんは」と申し上げるべきかもしれません。

世界初となるCESにおけるボッシュのデジタル記者会見にようこそ。対面でのやり取りや、技術革新を直接目にする興奮にまさるものはありませんが、皆様の健康と安全が最優先されるべきであると考えています。ですから、Consumer Technology Association(全米民生技術協会)のおかげで私たち全員がバーチャルに集い、テクノロジーの世界におけるあらゆる最新の開発成果に関する情報を共有できることを、大変うれしく思います。

毎年、何万人もの人々がCESに集まり、どうすればテクノロジーによって私たちの生活を改善できるかについて意見を交わしています。この真実が、この数カ月にわたって前代未聞の方法で証明されてきました。もし新型コロナウイルスのような伝染病が数十年前に世界的に流行していたとしたら、社会生活や労働環境は完全に破綻していたはずです。現代であればこそ、愛する人々と直接会うことはできないにしても、少なくとも画面を通じて話をしたり、笑ったりすることはできています。また、テレワークを可能にするテクノロジーのおかげで、何億人もの人々が生産性をほとんど、あるいはまったく落とさずにこらえることができています。

ボッシュの立場からすると、これは私たちが最初から知っていたことが確認されたにすぎません。人々の生活を改善するテクノロジーの活用は、「Invented for life」というボッシュのコーポレートスローガンの核心をなしているからです。本日は、特に私たちの健康や地球の健全性という点に関して、現代の主要な課題のいくつかを克服するために、AI(人工知能)やネットワーク化といった最先端テクノロジーの力をボッシュがどのように活用しているのか、その例を複数挙げてお話ししたいと思っています。

最大の脅威であり、最優先課題であり続けている気候変動
昨年、世界中で健康の危機を体験したことは、広い意味での「Invented for life」について考える機会となりました。パンデミックという世界中の命を脅かす危機に挑むことで、私たち全員が直面している気候変動というさらに大きな脅威に取り組むという私たちの役割をしっかり果たしたいという決意が強まりました。どちらの試練でも、流れを変えるためには、多くの点で膨大な努力と協力が必要になります。ですから、現在のように経済的に不確実な状況の只中にあっても、私たちが世界をリードし、持続可能性に向けた包括的な取り組みを推進し続けることが非常に重要であると考えています。確かにクライメートアクションはコストがかかりますが、何もしないでいれば、もっと多くのコストがかかることになってしまうからです。

今から1年半前に、私たちは2020年末までにボッシュの全拠点をカーボンニュートラルにすると宣言しました。私たちはその約束を守り、世界的に事業展開する企業として初めてこれを成し遂げました。独自の試算では、現在のボッシュはクライメートニュートラルになっています。つまり、ボッシュの世界400の拠点でカーボンフットプリントがゼロになったということで、これは近いうちに独立監査人の報告書によっても確認される見込みです。国際的な非営利団体「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)」は、世界中の企業と都市が環境に及ぼす影響をランク付けするために「A」リストを公表していますが、ごく最近、この権威あるリストにボッシュが掲載されたという知らせを受け、ボッシュの成果が改めて認められることになりました。

この成功を導くために、エネルギー効率の改善、再生可能エネルギー比率の向上、グリーン電力調達の拡大、そしてCO2の排出を防ぐことができない分に対してカーボンオフセットを実現するという4つの戦略をボッシュは導入しました。実際、範囲と時間枠という点で、ボッシュほどカーボンニュートラルに向けて積極的に努めてきた製造企業は他にありません。とはいえ、この努力は魔法のように無から生まれたわけではなく、長期的な戦略による論理的な結果です。

カーボンニュートラルを目標に掲げた以上、速度を落とすわけにはいきません。実際、ボッシュではさらに大きな課題に焦点をシフトしつつあります。その焦点とは、調達から販売する製品の廃棄処分にいたるまで、事業分野すべてを通じたバリューチェーン全体にわたる排出量の削減です。こうした上流と下流で発生するCO2排出量は、カーボンニュートラルの目標を公表した時点でのボッシュの拠点におけるCO2排出量の100倍に達します。私たちは2030年までに、こうしたバリューチェーン全体におけるCO2排出量を15%削減することを目標に掲げています。なお、これはボッシュだけで考え出した数字ではなく、民間セクターでの迅速なクライメートアクションを後押しする世界的なイニシアチブ「Science-Based Targets」とボッシュの間で合意されたものです。ボッシュは自動車部品サプライヤーとして初めて、この設定された目標に向けて取り組むことになりました。

ボッシュのバリューチェーンに関わる人が増えれば増えるほど、ボッシュの影響力は大きくなる、という乗数効果をぜひ考えてみてください。2年前にもご一緒した皆様は、まさにここCESにおいて、私たちが「Like a Bosch」キャンペーンを打ち出し、高く評価されたことを覚えていらっしゃるかもしれません。今回も私たちは同じようなことをしたいと考えています。今回の最新のキャンペーンでは、「live sustainable like a Bosch(ボッシュのように持続可能な暮らしを送る)」を掲げ、一緒に気候変動に取り組むことを呼びかけています。

製品ラインナップに反映された持続可能性
このキャンペーンが示すように、ボッシュの製品それ自体に、持続可能性に向けた取り組みがよく表れています。消費者サイドからすれば、ボッシュの製品は、消費者による環境フットプリントの削減に役立ちます。たとえば、ボッシュの最先端のサーモテクノロジーは、ドイツ国内だけでも各家庭で年間2.5トンのCO2を削減するのに役立っています。ゼオライトテクノロジーを採用したボッシュの食洗機は最大20%の省エネになるほか、ボッシュの洗濯機はかなりの節水タイプです。また、ボッシュの頑丈な電動工具はインテリジェントなパワーコントロールテクノロジーを採用し、長寿命を実現することで、電子機器の廃棄の削減にもつながっています。

ボッシュの中核となるモビリティ事業においても、私たちの多種多様なソリューションとサービスは、カーボンフットプリントの削減に寄与しています。私たちは、世界の気候や都市の大気環境に悪影響を及ぼさないモビリティ関連製品というビジョンに向けて取り組んでいます。このビジョンを追求するために、内燃機関、電動パワートレインや燃料電池、さらに電動自転車からトラックまであらゆるものを動かす多様なパワートレインソリューションの開発を進めています。

ボッシュのeBikeシステム事業部は、電動アシスト自転車用の駆動ユニット、バッテリー、スマートな車載コンピューターからなる高品質の駆動システムに関して、10年以上にわたり次々と新たな基準を打ち立ててきました。たとえばボッシュの最新世代のオンボードコンピューター「Nyon(ニヨン)」は、車載ナビゲーション機能、フィットネストラッキング、デジタルロック、地形ベースの航続距離推定機能を搭載し、CES 2021イノベーションアワードを受賞しています。

車両ベースのeモビリティについても、ボッシュは他のどの企業よりも広範にわたる製品ポートフォリオを擁しています。ボッシュは早い時期からeモビリティの飛躍的進歩に向けて専門知識とかなりの資金を投じており、eモビリティへの投資金額は昨年だけでも約6億ドル(5億ユーロ)超にのぼります。ボッシュの電動パワートレインは現在、世界150万台以上の車両に搭載されています。また、ボッシュの製品ポートフォリオには、パワートレイン、ステアリングシステムからブレーキにいたるまで、電動化に必要なものをすべて取り揃えています。

戦略を補完する牽引役となるAI・IoT
クライメートアクションと並び、ボッシュの戦略のもう一つの柱となるのは、IoT(モノのインターネット化)とAIを組み合わせた「AI・IoT」を推進することです。この2つの戦略的手段は、実際には密接に関連しており、多くの場合、AI・IoTとデータが持続可能性を高めるための技術的なカギを握っています。その例として、製造における設備と工程を最適化するボッシュのクラウドベースのエネルギープラットフォームを挙げることができます。このプラットフォームは、インテリジェントなアルゴリズムを駆使し、エネルギー消費量の予測、ピーク負荷の回避、典型的な消費パターンからの逸脱の是正に役立ち、工場でのCO2排出量の削減につながります。これにより、たとえばドイツのホンブルクにあるインダストリー4.0のボッシュの基幹工場は、2年間でCO2排出量を約10%削減できました。このソリューションは、サウスカロライナ州チャールストンをはじめ、世界100以上のボッシュの拠点ですでに採用されており、さらに他の企業にも販売されています。

しかし、テクノロジーと持続可能性のつながりを明らかにしたのは私たちだけではありません。最近ドイツ国内で行われた研究によると、モビリティ、製造、ビルディングテクノロジーの各分野で徹底的にデジタル化を推進すれば、パリ協定の一環としてドイツが公約した排出ガス低減目標をほぼ半分は達成できる可能性があることが判明しています(出典:Accenture)。他の研究でも、国連の17項目の持続可能な開発のための目標すべてを達成する上で不可欠なものとして、デジタルソリューションが挙げられています(出典:Econsense)。もちろん、これは私たちにとって驚きを感じるものではありません。AIとネットワーク化の潜在的なメリットを強く確信しているボッシュは、事業を展開するすべての分野でAI・IoTのリーディングカンパニーになることを目指しているからです。

特にAIに関しては、私たちは「産業用AI」に向けて開発を続けています。他の多くの技術企業では、AIは、特に購買の好みに的を絞り、人間の挙動モデルを作り上げることに活用されています。一方、ボッシュが的を絞っているのは、モノの世界や、モノと環境との相互作用です。自動車の衝突被害軽減ブレーキでも、生産時に発生する不良部品を特定する場合でも、AIは、人間がすることを機械にレクチャーするのではなく、物理的な世界を機械に教え込みます。これによってインテリジェントな挙動が可能になり、機械の作動の最適化につながります。私たちはこのようにしてAIの潜在的可能性を引き出し、人々の生活の質の向上につなげたいと考えています。この目標に忠実であり続けられるよう、特に疑問やジレンマに遭遇した場合のために、ボッシュはAIの開発と適用に関するAI倫理規定を策定しています。ただ、AIの潜在的可能性を余すところなく活かすためには、AIのメリットに対する人々からの理解と、何よりもテクノロジーに対する信頼の構築が重要であると考えています。

健康と家庭のために活かされるAI・IoT
こうしたメリットが特に活かされるのは、健康やウェルビーイングの分野です。これに関しては、新型コロナウイルスと気候変動という二重の試練に直面する過程で、ボッシュが「Invented for life」というコーポレートスローガンを確実に体現していることがよく示されたと思います。この数カ月にわたり、新型コロナウイルスに挑む技術ソリューションを開発・製造することに焦点を当ててきました。

この点について私たちが最も誇りに感じているソリューションは、新型コロナウイルスの感染の有無を素早く判定できる迅速検査システムです。ボッシュのポータブル医療用分析装置「Vivalytic」を使って6週間という短い期間でPCR検査を開発し、昨年3月のローンチに至りました。その後、陽性の結果が出るまでにかかる時間を、当初の2時間半から30分未満まで短縮しました。また、検査カートリッジに改良を加え、最大5つの検体を同時に収められるようにしたことで、処理能力も著しく向上しました。現在は介護施設から診療所まで、さまざまな場所でこの迅速検査システムが活用されています。ボッシュは検査能力を高めるために、年内に検査カートリッジの生産台数を300万台まで引き上げることを目標に掲げ、増産に取り組んでいます。

AI・IoTの活用に関しては、この迅速検査システムはネットワーク化に対応しており、インターネット接続環境があれば、ボッシュのクラウドプラットフォーム「Vivasuite」を通じてソフトウェアがアップデートされます。新型コロナウイルスにかかる検査時間が短縮されると、現場で既に使用されているデバイスにも最適な手順で自動的にアップデートされます。

ボッシュの子会社であるSecurity and Safety Thingsの新しいオープンセキュリティカメラソリューションは、多種多様な新型コロナウイルス関連のニーズに応えることができます。このカメラのエコシステムも、2021 CESイノベーションアワードを受賞しており、異なるメーカーのカメラにカスタマイズしたアプリケーションを搭載することが可能です。このAIベースのアプリケーションを使用すれば、たとえば地域の新型コロナウイルス規制に準拠した店舗内のお客様人数の自動検知や人数制限、マスク着用の有無の確認を可能とします。

個人の家庭向けには、画期的な大気環境センサーという、スマートなソリューションを開発しました。この新しいセンサーは、温度、湿度、空気純度などの従来の指標のほか、部屋の中に存在するエアロゾルや、吸入した空気の量を測定することができます。どちらも新型コロナウイルスの伝染の危険要因となりうるため、これらの測定値に基づいて、換気が必要なタイミングで警告することができます。この新しいセンサーは、ボッシュの既存の2つのスマートホーム関連製品であるインテリジェントな煙感知器「Twinguard」と、ポータブル警報装置「Spexor」に組み込まれます。

ボッシュは現在、多くのリソースを新型コロナウイルスに対抗するために投入していますが、私たちがテクノロジーを駆使して挑んでいる病はもちろんこれだけではありません。たとえば、ボッシュは新しいポータブル貧血スクリーニングソリューションを開発し、こちらも2021 CESイノベーションアワードを受賞しました。このヘモグロビンモニターは、機械学習アルゴリズムを駆使した、医療現場向けのコンパクトな非侵襲的ソリューションです。このシステムは、世界中で年間100万人が命を落とす原因となっている貧血を、迅速かつ信頼性の高い方法で診断およびモニタリングし、30秒以内で結果を出すことができます。

もちろん、健康というのは、単に病気を治療し、予防することだけではありません。これを踏まえ、ボッシュは、私たちの多くが体調を維持するために使用しているウェアラブルフィットネス・トラッカー向けに、新しいAI対応センサーを発表することにしました。ボッシュ センサーテックが開発したのは、ポータブルデバイスにAIを搭載した画期的な自己学習型モーションセンサーで、特に反復的・周期的な動作パターンに基づき、あらゆるタイプのフィットネス・アクティビティを認識・記録できるようになります。センサー自体でAIが動作するエッジAIを採用したことで、待ち時間と消費電力が最小限に抑えられるだけでなく、クラウド接続やスマートフォンへの接続も不要となるため、ユーザーデータのプライバシーを完全に守ることができます。

AI・IoTにおける専門知識の構築と新たな地平の探求
AI・IoTにおけるリーダーシップを追求するにあたり、ボッシュはテクノロジーだけでなく、人間にも焦点を当てています。昨年、私が発表したAIトレーニングイニシアチブのことを覚えておられるでしょうか。現在、2万人の従業員がAIの原理に関する講習を受ける計画が順調に進展しています。CTA職業訓練連合のメンバーでもあるボッシュは近頃、米国でソフトウェア工学に的を絞った職業訓練モデルを打ち立てました。ボッシュでは、これを「our IoT apprenticeship(IoT職業訓練)」と呼んでいます。この12カ月プログラムの目標はいたってシンプルです。まず、移転可能なスキルを備えた有能な非エンジニアを募集し、この人々にシステムアーキテクチャ、設計やコーディングについて学んでもらい、プログラムを修了したらこの職業訓練生をできるだけ雇用するという流れです。ボッシュのこのIoT職業訓練モデルは、非常に厳しい雇用環境において、私たちのソフトウェア工学のニーズに応える才能を育てるための「構築」戦略を具体化したものとなっています。

ボッシュが実施した第1回IoT職業訓練の訓練生のなかには、料理人だった人や、店舗の技術者、プライベートバンクの支配人などもいました。こうしたキャリアを離れることを決意した人々の動機は、大変興味深いものです。現実世界で技術的経験を積みたいと思っている人もいれば、おもしろいプロジェクトで働く機会を求めている人もいます。こうした人々は、積極的に参加して学ぶ姿勢ができており、私たちも、彼らがIoTの旅路に乗り出すのを興奮しながら見守っています。

最新の情報についてお話ししますと、AIが最もはるか彼方で応用された例があります。昨年、皆様にご説明しましたが、NASAがボッシュのAIベースのセンサーシステム「SoundSee」を国際宇宙ステーション(ISS)に載せ、深層音響分析を実施する計画を立てました。うれしいことに、このボッシュのシステムは、実際に地球のはるか彼方で軌道を描きつつあります。さらにNASAとは、もう一つのAIベースの宇宙用途についても協業しています。

今回、ボッシュのテクノロジーはNASAの「ティッピングポイント」プログラムの一環として月に向けて旅立つことになりました。ボッシュはAstrobotic社、WiBotic社、およびワシントン大学とパートナーシップを結び、月面を探索する小型ロボット向けのワイヤレス充電とインテリジェントな自律ナビゲーションのためのテクノロジーを研究・開発しています。この「CubeRovers」と呼ばれる靴箱ほどの大きさのロボットは、GPSが選択肢とはならない環境において、月の荒涼とした予測不能な状況のなかをナビゲートし、ドッキングステーションに帰還するために装備されます。ピッツバーグとシリコンバレーにいるボッシュの研究者たちは、AIベースのインテリジェントなデータ分析とワイヤレスネットワーク化ソリューションに関する専門知識を通じてこのプロジェクトに貢献し、2023年中頃までにこのシステムをデモンストレーションできる段階まで仕上げる予定です。

では、宇宙から地球に話を戻し、家庭の近くでAI・IoTテクノロジーがもたらしうるメリットについてご説明することにしましょう。モビリティ分野では、A点からB点への移動を気候にやさしいものにする上で、AI・IoTテクノロジーがどのように役立つのかはすでに実証されています。ネットワーク化された自動運転ソリューションは、渋滞を緩和し、都市部の交通の流れをスムーズにすることで、燃料消費量と排出量の大幅な削減に貢献します。

駐車についても同じことが当てはまり、それは特に都市の中心部で顕著です。これに関して、ボッシュは自動バレーパーキングソリューションの開発を続けてきましたが、このテクノロジーが米国でデビューしました。ボッシュは昨年、フォード、不動産開発業者のベッドロック社と連携し、デトロイトで完全自動駐車システムのデモンストレーションを行いましたが、これは米国初となる駐車場内での自動バレーパーキングのインフラ協調のソリューションとなりました。ドイツ国内でも、ボッシュは複数のパートナーと協力し、空港の駐車場における世界初の自動バレーパーキングの商用サービスの提供を目指して取り組んでいます。

AI・IoTがあれば、モビリティベースのサービスを通じて、持続可能性を高めることも可能になります。その1例となるのが、電気自動車の車載バッテリーです。バッテリーの寿命を最大限に伸ばし、早期の劣化を防ぐために、ボッシュはバッテリー性能の大幅な向上と寿命の延長に貢献する一連の「バッテリー・イン・ザ・クラウド」サービスを開発しています。このサービスでは、クラウド内のスマートなソフトウェア機能がバッテリーの状態を継続的に分析し、セルの劣化を防止または遅らせるために適切な措置を講じます。これにより、バッテリーの消耗を最大20%低減することができ、バッテリーの交換頻度を抑えられるだけでなく、環境プロファイルも改善できます。

モビリティの電動化、自動化、パーソナライズ化およびネットワーク化されたサービスの組み合わせにより、自動車のソフトウェアとエレクトロニクスへの需要が増大しています。車両1台に搭載されるソフトウェアのコード数は、2010年当時は約1,000万行でしたが、現在は自動運転車両でなくても1億行に達しています。未来の自動運転車両では、最大で5億行が必要になるでしょう。同時に、車両の高機能化に伴い、電子工学は急速に複雑さを増しています。

この両方の分野での長年にわたる専門知識を活かすために、ボッシュは、運転支援、自動運転、カーマルチメディア、パワートレイン、ボディエレクトロニクスの各分野で培ったソフトウェアと車載エレクトロニクスに関する専門知識を、10日前に活動を開始した事業部「クロスドメイン コンピューティング ソリューション」に集約させています。

この事業部は、全世界で約1万7,000人のボッシュの従業員を擁しており、ほぼ半数がソフトウェアエンジニアです。この事業部を立ち上げることで、事業領域をまたいだソフトウェアとエレクトロニクス向けソリューションを通じて、未来の車両の複雑さを低減してコントロールすることを目指しています。特に焦点を当てるのは、現在使用されている多数の個別のコントロールユニットに代わる、パワフルな車載コンピューターです。将来的には新しい車載機能を大幅に高速化し、車両をさらにインテリジェントなものにし、ドライバーがメリットを実感できるようにすることが私たちの目標です。

表裏一体をなす持続可能性と競争力
こうしたすべての例が示しているように、ボッシュは、前途有望なテクノロジーや従業員、事業に対して惜しみなく投資しています。その目的は、気候変動と地球規模での新型コロナウイルスの流行によって変化・変換が加速している世界において、ボッシュが競争力を確保できるようにすることにあります。こうした投資には、将来の世代のために持続可能な世界をつくるという私たちの役割に対する深い責務と、ボッシュの事業の将来に対する責務が強く表れています。実際、この2つの責務が矛盾するとは考えていません。私たちの視点からすると、持続可能性と収益力は、表裏一体の関係にあるからです。

第1に、持続可能性を追求しようとすれば、必然的にエネルギー効率を追求することになり、結果的にコスト効率を改善できます。第2に、これにより、エネルギー価格の上昇の影響を受けにくくなります。第3に、環境にやさしい製品への需要拡大に応えようとすることで、新たな市場が開拓されることになります。第4に、気候にやさしいソリューションを開発するには、既成概念にとらわれずに物事を考える必要があることから、革新の可能性が解き放たれます。

最後に、これも重要なことですが、こうした新しいグリーンテクノロジーから、カーボンニュートラル関連のコンサルティングとサービスという形で、ボッシュにとって新しいビジネスチャンスが生まれています。これに対応するために、私たちはボッシュ・クライメートソリューションズという新しい子会社を設立し、クライメートニュートラルに向けた他社の取り組みをサポートするためのアドバイザリーサービスを提供しています。ボッシュは、自らがカーボンニュートラルを実現することで得られた知識と経験や、世界各地で実施して成功を収めてきたプロジェクトを通して得られた知識や経験を伝えることを目指しています。

まとめ
ボッシュでは、技術革新、事業の成功、クライメートアクションの3つは、互いに矛盾するものではないと固く信じています。それどころか、この3つは相互に結びついていると考えています。今日、持続可能性を追求している企業だけが将来も引き続き成功を収めることができ、テクノロジーの可能性を引き出すことによってのみ、気候変動や新型コロナウイルスのような試練に打ち勝つことができるでしょう。こうした信念がボッシュの企業戦略の根底にあり、またあらゆる意味における「Invented for life」というコーポレートスローガンに忠実な幅広い製品ポートフォリオ、サービス、ビジネスモデルの背後にあるモチベーションとなっています。

本日はご清聴ありがとうございました。どうぞ安全に留意し、お元気でお過ごしください。



このスピーチは2021年1月11日に Robert Bosch GmbH より発行されました。
原文をご覧ください。