ボッシュ株式会社
代表取締役社長、クラウス・メーダー
取締役副社長、クリスチャン・メッカー
によるスピーチ
2022年6月16日


本稿は実際の内容と異なる場合があります。


代表取締役社長クラウス・メーダーからのご挨拶
みなさまこんにちは。本日は、弊社の年次記者会見にご参加いただきありがとうございます。

オンラインでの記者会見も、3年目となりました。まず、当社の働き方の変化についてお話させていただきます。ボッシュは従業員の健康と安全を第一に、COVID-19による感染状況に応じて、在宅勤務が可能な従業員は最大100%まで、在宅勤務の割合を柔軟に調整してきました。この間、製造現場やテストスタンド、研究所やオフィスなどで勤務した従業員に、感謝の意を述べたいと思います。私たちは、オンサイトとオフサイトのハイブリッドな働き方を実現しました。このハイブリッドな働き方には大きなメリットと機会があり、生産性にプラスの影響を与えることを実感しました。ボッシュはニューノーマル(新しい生活様式)でも、オフィスで働く時間とリモートで働く時間を混合させた、ハイブリッド型ワーキングモデルを採用します。

「SmartWork」のコンセプトのもと、ボッシュは柔軟な勤務体系を提供し、オフィスにいることよりもパフォーマンスを重視するハイブリッド型ワーキングモデルを推進しています。ボッシュは、従業員と経営層との信頼関係を基盤とし、一人ひとりの能力を最大限に引き出し、会社を強くしていくことを目指しています。Smart Workはボッシュがグローバルで推進しているコンセプトですが、画一的なガイドラインではありません。それぞれの国や事業、そして従業員のビジネス環境とニーズに対応します。今後は、相互の信頼関係を基盤に、柔軟かつパフォーマンスを重視した働き方の実現に向け、従業員との対話を進めていきます。勤務地や勤務時間の柔軟性を高め、遠隔地からのフルリモートワークや、一定の条件下で海外からの勤務を可能とすることも視野に入れています。ニューノーマルにおけるボッシュの働き方は、柔軟で、どこででも、そして海外からでも働けると言えるでしょう。

また、柔軟な働き方のオプションのひとつとして、今年4月から新たに「ショートワーク正社員制度」を導入しました。育児や介護などによりフルタイムで働くことが難しい従業員や、就学などの自己啓発のために短時間勤務を希望する従業員が、個別の事情にあわせて選択することが可能です。この制度では、週の所定労働時間を20時間以上、週3回以上としています。週3日勤務、すなわち週休4日制を選択することもできます。私たちは以前の働き方には戻しません。ボッシュのニューノーマルは、真に新しいのです。従業員にとって快適で柔軟な職場環境をさらに発展させるニューノーマルにより、“選ばれる会社”を目指します。

さて、本日は2021年のボッシュ・グループの日本における活動の成果と、そして2022年の展望についてご紹介させて頂きます。まずは、クリスチャン・メッカーより、業績についてご説明します。

ボッシュ・グループ グローバルにおける2021年の業績
みなさまこんにちは。本日はご参加いただきありがとうございます。2021年の日本の業績をご紹介する前に、ボッシュ・グループのグローバルでの業績を簡単にご紹介します。

2021年、世界経済は回復傾向にあったものの、大変厳しい1年でした。当社のビジネスは、世界的な半導体供給不足やCOVID-19関連のサプライチェーンの混乱、材料費および輸送費の上昇により、マイナスの影響を受けました。このような状況においても、ボッシュ・グループは2021年、売上高ならびにEBITとも、当初の予測を上回る好業績を達成しました。売上高は前年比10.1%増の787億ユーロで、EBIT(支払金利前税引前利益)は約32億ユーロでした。モビリティ ソリューションズ、産業機器テクノロジー、消費財、エネルギー・ビルディングテクノロジーのすべての事業セクターがプラス成長を遂げました。なかでも最大の事業セクターであるモビリティ ソリューションズの売上高は、7.6%増の453億ユーロでした。言い換えると、当社のモビリティビジネスは、前年比をわずかに上回った世界の自動車生産よりも成長したと言えます。

日本においてもボッシュ・グループは、堅調な業績を収めました。2021年の日本における第三者売上高は2,950億円、昨年比9.5%増でした。日本では、事業の9割以上がモビリティ関連ビジネスです。日本国内の自動車生産台数が前年度を下回る結果となったなかで、グローバルのモビリティ ソリューションズ事業より大きな成長を遂げたと言えます。ESCなどの車両安全に関する部品から最新のインフォテインメントシステムまで、幅広いポートフォリオが売上に貢献しました。

2022 年も課題が多い年になるでしょう。世界的な半導体不足、グローバルサプライチェーンの混乱、材料や輸送、エネルギーコストの更なる上昇、さらにウクライナ戦争による影響も懸念されます。加えて、2022年の世界自動車生産台数は2021年よりは増えるものの、コロナウイルス発生前の2019年のレベルには及ばないと予測しています。

2022年第1四半期の売上高は昨年度を上回り、好調なスタートを切りました。第1四半期以降は減速傾向にあるものの、日本のボッシュ・グループの2022年の売上高は、2021年よりも拡大すると見込んでいます。

次にメーダーより、日本の新規プロジェクトについてご説明します。

日本市場への強いコミットメントを示す新規開発・生産プロジェクトが始動
2022年、日本においては明るい未来、そして日本市場への当社のコミットメントを表す新たな複数のプロジェクトが動き始めています。4つのプロジェクトを、みなさまにご紹介させていただきます。

まず、横浜市で進めている、新研究開発施設と都筑区の区民文化センターの建設プロジェクトです。未来のモビリティを実現するためには、事業部の垣根を超え、従業員間のコラボレーションの促進による先進的なアイディアの創出、そして長期的な視野に立ち、より自由に開発が進められる環境の整備が必要です。このような考え方のもと、ボッシュは2022年1月、新たな研究開発施設の建設に着工しました。この建設プロジェクトには、約390億円を投じます。これは、ボッシュが1911年に日本でビジネスを開始して以来、日本におけるボッシュ・グループの設備投資額としては最大となります。

新社屋には、モビリティ ソリューションズ事業セクターの大部分の事業部とグループ企業を集約します。同時に、産業機器、消費財、エネルギー・ビルディングテクノロジー事業セクター傘下の事業部ならびにグループ企業も同施設に移転します。また、現在渋谷に置いている本社機能も、この研究開発施設に移転します。なお、新社屋から約2キロメートルの既存の研究開発施設は、パワートレイン関連の研究開発と、二輪車およびパワースポーツ事業のグローバル本部としての役割を継続します。2024年9月の竣工後、2024年12月までに順次移転し、新社屋では2,000名、既存の研究開発施設では700名の従業員が勤務する予定です。このエリアだけで、ボッシュ・グループ全体の4割以上の従業員を集約します。この横浜の2拠点を軸に事業部間の協業・連携を推進して国内の開発体制のさらなる強化を図ります。

敷地内には、横浜市都筑区の区民文化センターを建設します。ボッシュ・グループで初めての公民連携の不動産プロジェクトです。当社は、区民文化センターの建設だけではなく、地域の賑わいの醸成という役割も担っています。この建設プロジェクトを通じて、日本の自動車市場、そして地域に貢献します。

次に、ボッシュは現在、埼玉県のむさし工場にて、電動パワーステアリング製品の最終組み立てラインを新たに立ち上げています。従来、電動パワーステアリングは国外工場にて製造から組み立てまで行い、日本の自動車メーカーに納品しています。日本国内で電動パワーステアリング製品の最終組み立てを担うのは、初めてのことです。なお、この電動パワーステアリングの組み立てラインの設営にあたり、エキスパートが入国する予定でしたが、水際対策の影響により、入国できない状況でした。そこで、複合現実ゴーグルを用いてエキスパートが国外から遠隔で指揮を執ることで、課題を解決しました。今後、日本の複数のプロジェクトにおいても、この複合現実ゴーグルを導入していく予定です。

今回日本での組み立てる電動ステアリングは、中型車をターゲットとした新世代品で、今回日本が製品の設計から最終品の完成までを担う初めてのプロジェクトとなります。日本においてお客様のそばでソフトウェアを最適化することで、より迅速にお客様の好みにあわせたフィーリングの創出が可能となります。ボッシュの電動パワーステアリングは、冗長性により、電気系統に故障が発生しても電動アシストを突然喪失することなく継続させることができ、自動運転のSAEレベル2以上の車両に対応することができます。ボッシュでは、自動化が進むにつれてフェールオペレーションに対応した電動パワーステアリングへの需要が高まると見ています。

栃木工場では、2022年年内に電動ブレーキブースター「iBooster」および日系自動車メーカーの小型車への要望に対応した派生製品「iBooster Compact」の量産開始に向け、準備を進めています。

埼玉県の寄居工場では、AIを活用した製品の外観検査を開始しました。ボッシュでは、2025年までに全製品にAIを搭載する、または開発や製造にAIを活用することを目指しています。寄居工場では、従来目視で行っていたコモンレール製品の外観検査をAIによる画像検査システムで行うこととしました。検査員による判定結果のばらつきを防ぐことで品質の向上に貢献しています。また、AIで外観検査することで、人員への負担を減らし、別の業務に充てることも可能となります。今年は、外観検査にAIによる画像検査を取り入れる製品や工場の、さらなる拡大を検討しています。AIの活用により、工場の効率化、生産性の向上、そして製品の品質向上に繋げます。

ご紹介した4つのプロジェクトは、日本における開発力、製造力を高めるための一例に過ぎません。日本国内の開発力と製造力の強化は、日本の自動車メーカーに対する当社のコミットメントの表れです。我々は、世界の自動車生産の30%を提供する日本の自動車メーカーをローカルでサポートするという責務を、引き続き果たします。後ほど、日本におけるエンジニアリングおよび開発への取り組みについてお話させていただきます。

カーボンニュートラルへの取り組みを推進
ここで、地球環境への責務として、当社の気候変動対策についてお話させて頂きます。当社では、気候変動対策は企業としての責任であるだけではなく、新たな機会の創出であると捉え、非常に真剣に取り組んでいます。

ボッシュは2020年に世界400カ所以上のすべての拠点で、スコープ1と2において、カーボンニュートラルを達成しました。そして次のスコープ3に向けたステップとして、製品の購入から使用までのサプライチェーン全体におけるCO2の削減を進めています。2030年までに、製品のライフサイクル全体を通じてサプライチェーンの上流から下流まで、CO2排出量を2018年基準値より15%削減します。スコープ3の90%以上は、工場出荷時から使用後の廃棄・リサイクルまで、製品のライフサイクルの各段階で排出されるCO2に該当します。そのため、最も効果的なアプローチは製品の改善となります。例えば、当社は自動車向けの幅広い製品を製造していますが、これまでは多くが化石燃料を使用する自動車向けでした。これらの製品を電動化し、自動車そのものをeモビリティとすることで、CO2の排出量を削減することができます。ボッシュではモビリティビジネスが全体の6割を占めます。つまり、私たちのポートフォリオに占めるeモビリティ製品の割合が大きくなればなるほど、ボッシュのCO2排出量は減少します。

成長が期待される領域への先行投資を加速
ここで、当社のeモビリティに向けた取り組みについてご説明させて頂きます。近年は世界中で、カーボンニュートラルへの取り組みによって電動化と水素戦略が推進されています。ボッシュは60カ国以上でビジネスを展開していますが、電動化に対するニーズは国やお客様ごとに異なります。幅広い電動パワートレインソリューションをポートフォリオとして有することで、あらゆる国において、また新興自動車メーカーから歴史ある自動車メーカーまで、あらゆる種類のモビリティに向けた気候にやさしいソリューションを世界中で提供し続けます。2021年における当社のeモビリティ関連の受注総額は、初めて100億ユーロを超えました。モビリティ用途の水素アプリケーション向けの製品ポートフォリオも拡大しており、この領域に多額の先行投資を行っています。2021年から2024年にかけて、モビリティ用途の燃料電池に約10億ユーロを投じる計画です。車両向け製品ポートフォリオは、個々のセンサーをはじめ、電動エアコンプレッサーやスタックなどのコアコンポーネント、燃料電池モジュール一式にまで及びます。燃料電池車向けの基幹部品は、日系のお客様からも大変引き合いの多い分野です。乗用車から商用車、建機など、幅広いモビリティ向けのコンポーネントに関心が寄せられています。

なお、モビリティ用途に加えて、ボッシュでは固体酸化物形燃料電池(SOFC)の開発を進めており、2024年までに5億ユーロ以上を投資する予定です。SOFCは、都市ガス(天然ガス)からバイオガス、水素という様々な燃料で稼働可能で、電気と熱を生成します。燃料電池に水素を使用すれば、直接CO2を排出することはありません。2024年に完成予定の横浜市の新社屋にも、都市ガスで稼働するSOFCシステムを、アジア太平洋地域で初めて導入します。

そして、ドイツのロイトリンゲン工場では、昨年末、eモビリティ向けのSiCパワー半導体の量産を開始しました。電動化に対する需要の高まりを受け、SiCパワー半導体の需要は世界中で高まりをみせています。SiC市場全体は毎年平均30%成長し、2025年には25億米ドル超に達する見込みです。このうち、車載用SiC市場が約15億米ドルと、最大のシェアを占めると見られています。ボッシュでは、1995年からMEMSセンサーを量産しており、現在は自動車1台あたりにボッシュのMEMSセンサーが平均5個以上搭載されています。このボッシュのMEMSセンサーのプロセス技術「ボッシュプロセス」を、SiCパワー半導体に応用しています。深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)、通称ボッシュプロセスは、高アスペクト比のプラズマ・エッチング・プロセスで、ウエハに深く細い穴や溝を形成することが可能です。これにより、当社のSiCパワー半導体チップのセル設計の小型化、省面積化、低コスト化に貢献しています。SiCパワー半導体は、シリコンチップよりも高いスイッチング周波数を実現するなど、特殊な物理的性質を有しています。また、熱として失われるエネルギーがほぼ半分で済むため、電気自動車の航続距離を6%延長する、もしくはバッテリーの小型化に貢献するという特長を誇ります。ボッシュでは現在、第2世代のSiCチップの開発も進めており、2022年の量産開始を目指してさらなる高効率化を図る予定です。

半導体不足緩和に向けて生産体制を拡充
加えて、世界的な半導体不足を緩和するための追加策も講じています。2022年だけで4億ユーロ以上を投資し、ドイツのドレスデンとロイトリンゲンのウエハ製造工場における生産能力の拡大、そしてマレーシアのペナンにおける半導体テストセンターの建設を計画しています。また、今後2025年にかけてロイトリンゲン工場の新しい製造スペースとクリーンルーム施設の建設に2億5000万ユーロ超を追加投資する予定です。ロイトリンゲン工場における生産能力の拡張により、ボッシュは特にMEMSセンサーとSiC(炭化ケイ素)パワー半導体に対する高まる需要に対応します。

車載ソフトウェア領域における開発に注力
次に、ボッシュが注力しているソフトウェア領域における取り組みについてご紹介させて頂きます。モビリティ分野では、ソフトウェアの重要性が増しています。ボッシュでは、車載ソフトウェア市場は、2030年まで年間2桁の成長を続け、2,000億ユーロをはるかに超える規模になると予測しています。ボッシュは、このソフトウェアが主役となる未来のモビリティにおいて主導的な地位を確立するため、更なる戦略的なステップを踏んでおり、2021年、ボッシュはクロスドメイン コンピューティング ソリューション事業部を設立しました。これは、運転支援やインフォテインメントなど、数多くの車両分野に対応する特定のハードウェアを備えたアプリケーション特化型車載ソフトウェアを提供する強力な事業部です。さらに、ボッシュとETASのさまざまな開発分野から、合計2,300人のエキスパートを集結し、車両およびクラウド向けのアプリケーションに依存しないソフトウェアのポートフォリオをETASに統合します。こうして生まれるセントラルプラットフォームにより、パートナー企業と共に車載ソフトウェアをより迅速かつ効率的に開発できるようになります。また、ボッシュとMicrosoft社のパートナーシップも新組織で継続されます。このパートナーシップは、車両とクラウドをシームレスにネットワーク化するための包括的なソフトウェア プラットフォームを開発することを目的としています。これにより、車両の耐用年数全体を通じて車載ソフトウェアの開発をより迅速かつ容易に行うことができ、クラウド経由でコントロールユニットや車載コンピューターにダウンロードすることも可能になります。全体的な目標は、既存および新規のお客様に、ソフトウェアデファインドビークルを実現するための統合的で水平型のクロスドメイン プラットフォームを提供することです。この新しい体制で、ボッシュはアプリケーションに依存しない車載ソフトウェアのリーディングプロバイダーを目指します。

しかし、それだけではありません。ボッシュは同時に、特定用途向けソフトウェアのサプライヤーとしての地位も強化しています。当社が注力する特定用途向けソフトウェアとして、自動運転機能の開発が挙げられます。ここで私たちは大きな一歩を踏みだすため、フォルクスワーゲンのソフトウェア子会社であるCariadと提携しました。両社の目標は、日常的に使用する自家用車での部分的な自動運転や高度な自動運転を実現することです。具体的には、ドライバーが一時的にハンドルから手を離すことができる機能を実現することです。また、高速道路での運転操作を代行するシステム、ハイウェイパイロットを開発する予定です。私たちは、早ければ2023年に最初のソリューションを導入したいと考えています。このソリューションは、VWグループのすべてのブランドのためのソリューションであり、最終的には他の自動車メーカーにも提供していくことを検討しています。このプロジェクトは、360度サラウンドセンシングからの情報に基づくデータドリブン型のソフトウェア開発が軸となります。実際の交通状況で収集したデータを、継続的かつリアルタイムで開発プロセスに反映します。それにより、より多くのデータが蓄積され、より高度な自動運転を実現し、安全かつ確実に実装するための基盤となります。また、ボッシュは最近、高解像度デジタルマップ分野のスペシャリストであるAtlatecと、自動運転分野の英国のスタートアップ企業であるFiveを買収し、ポートフォリオを拡充しました。ボッシュは今、アクチュエーター、センサー、マップからソフトウェア、エンジニアリング環境に至るまで、自動運転に必要なすべての構成要素をワンストップでお客様に提供できる唯一の企業となっています。

ボッシュではまた、車両制御のための様々なアクチュエーターを統合制御できるソフトウェア、ビークルダイナミクスコントロール2.0の開発を進めています。ビークルダイナミクスコントロール2.0は、次世代の横滑り防止装置(ESC)とインテグレーテッドパワーブレーキに対応します。従来、ESCは横滑りを検知してはじめて車両に介入し、安定性を回復させています。一方、ビークルダイナミクスコントロール2.0は、ビークルダイナミクスセンサーの情報をもとに車両の挙動を予測します。そして、横滑りの危険性が予測された場合に、先回りして車両に介入します。その結果、ドライバーは車両をコントロールしながら、よりスムーズな運転が可能となり、車両の安全性や快適性、俊敏性の向上に寄与します。

ビークルダイナミクスコントロール2.0は、ブレーキ、シャシー、ステアリング、パワートレインシステムなど、ビークルダイナミクス制御のための様々なアクチュエーターを統合制御し、将来的にはバイ・ワイヤシステムを最大限に活用できます。ステアリングとブレーキを協調制御することで、まるでレールの上を走るようなコーナリングや、滑りやすい路面での制動距離の短縮が可能です。ビークルダイナミクスコントロール2.0はまた、安全性に貢献するだけではなく、各自動車メーカーの求める走行フィーリングにあわせて、車両制御をカスタマイズすることが可能です。今から、例としてコンサバティブモードとスポーティブモードでの走りをお見せします。コンサバティブモードは、操舵量に対して適切な旋回性能を有し、アンダーステア傾向で、車体を安定して制御するという特徴があります。一方、スポーティブモードは、操舵量よりも車体の旋回性能が上がり、オーバーステア傾向で、よりダイナミックな車体制御を可能とします。二つのモードを比較すると、より違いをご覧頂けるかと思います。ビークルダイナミクスコントロール2.0は、コンパクトカーからプレミアムカー、小型商用車まで、そしてマニュアル運転から自動運転モードまで、すべての車両タイプに対応可能です。次世代ESCは、2023年に栃木工場で生産することが既に決まっています。当社では1995年、世界で初めてESCの量産を開始し、車両制御における長年の経験を有しています。その結果が、車両の動きを予測するフィードフォワード制御が可能となるソフトウェア、ビークルダイナミクスコントロール2.0の開発に繋がっています。

このように、ボッシュは未来のモビリティのためのソフトウェア開発を加速させています。ボッシュでは、開発能力のさらなる強化に向け、グローバルでソフトウェアエンジニアの数を年率10%増員しています。日本では、ソフトウェアとエレクトロニクスを集約したクロスドメイン コンピューティング ソリューション事業部だけでも、今後2年以内に自動車業界内外から250名以上のソフトウェアエンジニアを採用する予定です。

ボッシュはまた、交通事故のない安全なモビリティに向けて、交通事故の発生を未然に防ぐための様々なソリューションの開発を進めています。そのひとつとして、カメラとAIを備えたドライバーモニタリングシステムを開発しています。未来の自動運転車において、ドライバーが車をコントロールできる状態にあるかどうかを常に確認することが必要です。現在、自動車メーカー各社でもドライバーモニタリングシステムの開発が進められており、外部調査によると、ドライバーモニタリングシステムの世界市場は、2027年までに年間10%以上拡大すると予測されています。

しかしながら、システムのテストや検証は実際の人を使って行われるため、膨大な時間とコストがかかります。これは、ドライバーモニタリングシステムは、常にドライバーの視線を検出する必要があるため、ドライバーの身長差や姿勢、運転中の視線の高さが変わる動作など、非常に重要なテストシナリオの件数が無数にあるためです。

このような背景から、ボッシュ・グループ傘下のITKエンジニアリングでは、ドライバーモニタリングシステムの開発を促進するシミュレーションソフトウェアを開発しました。このソフトウェアは、仮想世界での走行機能テストに使用する環境を作成するフレームワーク、iVESSをプラットフォームとして開発されています。ゲームの開発基盤を使って仮想環境を構築し、実際のドライバーモニタリングシステムで使用するセンサーやカメラの情報を取り込み、様々な想定しうるケースのシミュレーションを行うことが可能です。検証には、高性能なグラフィックカードを搭載した通常のPCがあれば、特別な機材は必要ありません。このシミュレーションソフトウェアにて大部分のテストシナリオを検証することで、検証効率を大幅に向上させることが可能です。自動車メーカーは、市場投入までの開発スピードを大幅に短縮することが可能となります。

トレーニング&リスキリングプログラムを通じて企業競争力を強化
最後に、従業員のリスキリングを含め、当社における人財育成についてもご紹介させて頂きます。

ボッシュでは、創業当初から人財育成を重要な経営課題のひとつと捉え、継続的に取り組みを進めてきました。近年、私たちの主力ビジネスである自動車業界全体も、大きな構造転換期を迎えています。この変化の激しい環境に対応するためには、従業員が新しいノウハウや知識を身に着け、競争力を確保する必要が有ります。ボッシュでは、従業員のトレーニングやリスキリングプログラムに継続的に投資し、過去5年間で10億ユーロを投じています。日本でも、ボッシュ・トレーニングセンターを含む人事部門と事業部が連携して、従業員自身が目指すキャリアを明確にし、その目指すキャリアを実現するために必要な学びの機会を得ることのできる体制づくりを積極的に進めています。

特に、クロスドメイン コンピューティング ソリューション事業部では、リスキリングプログラムの提供に注力しています。社内でも、これまでソフトウェアを扱っていなかった従業員でも、ソフトウェア部門への異動を奨励しています。この分野に新しく挑戦する従業員への研修メニューを、自動運転、先行開発部門といった事業部内の部門が、ボッシュ・トレーニングセンターと連携して考案しています。

ボッシュ・トレーニングセンターでは、過去の経験にかかわらず、従業員が現在、そして近い将来のソフトウェア開発に対応できる様に研修メニューの幅を広げています。テクノロジー分野の研修メニューとして、従来のデータ分析やプロダクトエンジニアリングといったプログラムに加え、ソフトウェアやAIなどの、現場からのニーズにあわせた研修の提供を加速しています。昨年だけで、累計約800名の従業員が、このテクノロジー分野の研修プログラムを受講しました。さらに、現場のニーズにあわせた新規研修の導入だけでなく、従業員が自発的に新たな技術分野の知識習得に挑戦できる環境づくりにも注力しています。

おわりに
自動車産業の転換期に対応するためには、ソフトウェアが重要な役割を担います。従業員のリスキリングに加え、新卒および中途採用を進め、目標達成を目指します。繰り返しになりますが、日本ではクロスドメイン コンピューティング ソリューション事業部だけで、今後2年間で250名以上のソフトウェアエンジニアを増員する予定です。私たちが事業を展開する非常に変化の激しいビジネス環境では、柔軟で適応力のある組織構造や働き方が求められます。日本では、2024年に完成する新施設とSmart Workの組み合わせが、この点で極めて重要な役割を果たすことになります。私たちは、より魅力的で、より未来に向けた、より高い成果を生み出す組織となるために、従業員の能力を最大限に発揮できる職場環境づくりに取り組んでいきます。私たちはこれからも、将来性のある分野に積極的に取り組み、イノベーションをおこすことで、市場における存在感を維持し、他社との差別化を図っていきます。

本日は、当社が様々な変化や課題のなかで、いかに市場の変化に対応し、ビジネスを成長させているのかについて、その一部をご紹介させて頂きました。ご清聴ありがとうございました。