ミヒャエル・ボレ(Michael Bolle)
ロバート・ボッシュGmbH取締役会メンバー

マイク・マンスエッティ(Mike Mansuetti)、
ボッシュ北米法人社長

CES2020 ボッシュ記者会見(米国ネバダ州ラスベガス)
2020年1月6日



本稿は実際のスピーチ内容と異なる場合があります。



2001年宇宙の旅
ターミネーター
マトリックス
エクス・マキナ
まるで好きな映画のリストを共有しているみたいですね。でも実際、これらすべての映画には共通点があるのです。

いずれの映画も、機械が自ら思考し、人類に悲惨な結果をもたらす未来を描いています。機械が私たちを操ったり、奴隷にしたり、私たちに取って代わったりと、その内容はさまざまですが、そこに込められたメッセージは同じです。私たちは、AIを開発することで、パンドラの箱を開けようとしているのです。

私も皆さんと同じくらいSFが好きで、観客の一人として、悪役として描かれるAIを楽しんできました。しかし今、テクノロジーの真の可能性について話す時がやってきました。それは、実際の人間に実際の価値を提供する可能性についてです。私たちはどうすれば人間の役に立つAIを作り上げることができるのか、どのように利用すれば人間の知能を補完できるのか、といったことが、今年のCESにおける大きな問いの一部となります。では、私たちはそれにどのように答えていくのでしょうか?

AIは、もはやサイエンスフィクションではありません。すでに私たちの日常生活に欠かせない存在となっており、私たちの運転、仕事、学習、買い物、旅行のあり方を根本から変化させつつあります。ボッシュにおいても、AIは私たちが作り上げる製品の一部になろうとしています。そうした製品は、私たちを助けて支え、より暮らしやすくしてくれます。製造業、スマートホーム、自動運転車両のいずれに使われる場合でも、確かなことがひとつあります。私たちは「Invented for life」の精神に沿って、AIを安全かつロバストで、説明可能なものにしたいと考えています。

仕事の世界に関して、私たちは技術的な転換期を迎えているだけではなく、深刻な熟練労働者不足にも直面しています。こうした状況もあり、人間と機械が一緒に働くことが欠かせなくなっていきます。ボッシュは、これが自明のことであると考えており、これを踏まえ、従業員のトレーニングとスキルアップ、従業員への投資、ならびに私たちの製品と機械の知能への投資を通じて、デジタル革命の具現化に努めています。

社会的には、自ら学習する能力を持つテクノロジーが受け入れられるようになるべきだと考えています。そのための唯一の方法は、私たち自身の学習にもっと投資していくことで、それはまさに私たちが実際に行っていることでもあります。

私たちは今後2年間で、約2万人の従業員をAIに精通した人材にするために、広範囲にわたる研修プログラムを導入する予定です。これについては後で詳しく説明いたします。

とはいえ、AIの社会的なメリットは、日常生活や仕事に活かすメリットをはるかに超えています。AIには、地球とその気候に恩恵をもたらす途方もない可能性もあります。私たちはこの可能性を活かし、経済的、環境的および社会的な責任の間でバランスを保つという目標を実現しようとしています。

2019年末までに、私たちはドイツ国内のすべての拠点でカーボンニュートラルを実現しました。そして今年末までには、全世界400カ所のすべての拠点が完全にカーボンニュートラルになる見込みです。これが実現すれば、私たちはこの野心的な目標を1年あまりで達成した初の大手製造企業となります。

そのために、私たちは独自のソリューションも活用します。たとえば、私たちのエネルギープラットフォームでは、すでにアルゴリズムを駆使して、製造におけるエネルギー消費量をモニターしており、個々の機械のエネルギー使用量の逸脱を素早く識別し、負荷のピークをずらしています。これだけで、各工場のCO2排出量を過去2年間よりも10%以上削減できました。270カ所の生産拠点を展開する企業にとって、これはかなりの節約につながります!私たちはこの成功に刺激され、エネルギープラットフォームを外部に売り込むことにしました。ただ、それだけではなく、私たちはAIをもとに、長期的なエネルギー消費量の予測と削減もできるようになる見込みです。

AIが市場を生み出しているが、デジタルへの信頼が不可欠

こうした例によって、AIが大きなビジネスチャンスももたらすことが浮き彫りとなったと思います。多くのさまざまな研究も、この考えを支持しています。たとえばAIは、2020年代末までに世界の主要経済国のGDPを大幅に押し上げると期待されています。PWCは、北米だけでも15%の増加を見込んでいます。同時に、全世界のAIソフトウェアの売上高は、2025年までに約1,200億ドルに達すると見込んでおり、これは2018年と比べて12倍の増加となります。また、世界経済フォーラムは、AIによる世界規模の雇用の喪失が、実際には新たな雇用の創出によって相殺され、差し引きで6,000万近い新たな雇用が2022年までにもたらされると予測しています。先に述べたように、こうした雇用では、今までと大きく異なる技能が求められるため、人々の新たな技術の習得やスキルアップを強力に推進する必要があります。

AIの影響が巨大であることに、議論の余地はありません。けれども私たちは、AIのメリットを人々に認識してもらえるようにするとともに、より重要なこととして、デジタル世界への信頼を構築していかなくてはなりません。CESにおける私たちのコーポレート スローガン「有益なAI:テクノロジーに対する信頼性を共に構築」は、私たちの取り組みを表現しています。この試みにおいて、ボッシュは両面的な取り組みを推進しています。

一方では、技術的な基盤を作り上げ、ソリューションを開発し、私たちのイノベーションを駆使して新たな事業分野を開拓しようとしています。他方では、「Invented for life」を体現するテクノロジーを作り出すという私たちのコーポレートスローガンの実現のためにAIを活用し、それによってAIのメリットを社会に受け入れてもらえるようにしたいと考えています。

少し思い出してみてください。乗用車から二輪車、eBikeにまでおよぶ車両向けに、横滑り防止装置ESC(エレクトロニック スタビリティ コントロール)、エアバッグコントロールユニット、アンチロックブレーキシステムなどの人命を救う革新技術を生み出してきたのは、ボッシュのエンジニアです。これが私たちの言う 「Invented for life」のテクノロジーで、AIを使う仕事も例外ではありません。たとえば、後で詳しく説明するように、AIも自動運転車両に用いれば、人命を救うテクノロジーとなります。

AIにおける信頼、責任と倫理

私たちは企業責任に真摯に向き合っており、AIを含む新たなテクノロジーへの取り組みを方向づけています。

デジタル世界における責任の決定的な要因は、信頼です。この信頼は私たちのデジタル事業にとって、長く続いている事業での製品品質と同じくらい重要になるでしょう。私たちは、AIの開発とAIへの信頼構築の両面に取り組んでいかなくてはなりません。この後者がなければ、前者も長期的な成功には至らないでしょう。では、どうすればこの信頼を築くことができるのでしょうか?それが可能になるのは、透明性があり、安全・安心かつロバストなAIを作り上げてこそです。これが実際に何を意味するのかについては、AIのエキスパートから説明してもらいます。

信頼構築についてのもうひとつの重要な側面は、特に個人情報に関係するデータセキュリティとデータプライバシーです。ボッシュの取り組み方はシンプルです。私たちのすべてのスマート製品とサービスに関して、ユーザーは、収集されたデータとそれを誰が利用するのかを完全に把握して管理することができます。

さらに、お客様とパートナー間で信頼を構築できるよう、私たちは早くも2015年の時点で、IoT事業におけるデータ保護の指針を打ち立てました。これは、GDPR規制の枠組みが欧州標準として導入されるよりも前のことです。私たちは現在、AIの将来の利用に関しても同様に指針作りに取り組んでいます。これは、特に疑問やジレンマが生じた場合に備えて、AIの開発と利用の倫理ガイドラインを定めるAI原則となります。

今後は、AIを用いるシステムを人間が常に制御できるようにすることが不可欠となっていきます。例としてドライバーアシスタンスを考えてみましょう。これについても、私たちは、ドライバーがいつでも運転を引き受けられるようにするためにAIを組み込みたいと考えています。私たちは、AIモデルのアルゴリズムをブラックボックス化しようとはまったく思っていません。決定の裏にある規則とパラメーターは、最低でも専門家が理解できるものでなくてはなりません。
とはいえ、ボッシュと大手技術系企業とでは、AIへの取り組み方が、ある根本的に重要な点において異なります。私たちが特に重視しているのは、AIを物理的な対象物に適用することです。自動車の衝突被害軽減ブレーキシステムにおいて、また工場の製造においても、私たちのAIは、物理的な世界を機械に説明しています。私たちの最新の自動運転用カメラは、AIを駆使して見るものを理解します。たとえば、歩行者が道路に踏み出そうとしているのかどうかをAIをもとに推測し、これによって物体認識能力が向上し、衝突被害軽減ブレーキの信頼性が高まることで、安全性が向上します。

ボッシュは、テクノロジーを向上させて製品と機械の性能を改善するために、AIの力を活用したいと考えています。私たちはこれを産業用AIと呼び、モビリティ、住宅、製造という3つの主要分野でスマートなソリューションの開発に用いています。

私たちがIoTについて話すときに「モノ」を強調するのは偶然ではありません。私たちは、ネットワーク化と知能を製品と機械に取り入れようとしています。私たちは車両、交通、さらに工場や建物についても知り尽くしており、私たちの事業分野横断的な専門能力の幅広さと奥深さに対抗できる技術系企業は他にありません。私たちの言う「産業用AI」をより深く理解するために、開発担当者の話にぜひ耳を傾けてみてください。

ボッシュ独自のセンサーは、大量のデータを提供します。そのデータにAI手法を活用すれば、新しいサービスと用途を生み出すことができます。遅くとも2020年代半ばまでには、私たちのすべての製品がAIを搭載しているか、開発もしくは生産過程でAIを活用する見込みです。そして最終的には、私たちの製品にお客様、そして私たち自身の開発担当者をサポートするような役割を教え込むつもりです。

AIの研究開発への投資

これを実現するために、私たちは、AIイノベーションにおいてもグローバルリーダーのひとつに数えられるようになりたいと考えています。私たちの研究開発活動はすべてこの目標に向かって進んでいます。ボッシュは現在、ソフトウェア開発のために年間40億ドル以上を投資し、約3万人のソフトウェアエンジニアを雇用しています。2017年に立ち上げたAIセンター(BCAI:Bosch Center for Artificial Intelligence)は、すでに150以上のプロジェクトに取り組んでいます。同センターは、世界中の7つの拠点で約250人のAIエキスパートを雇用しており、ここ米国には、ペンシルベニア州ピッツバーグとカリフォルニア州サニーベールの2カ所に拠点があります。米国の研究チームは、私たちのAI開発活動、とりわけロボティクスと自動運転において重要な役割を果たしています。

しかし、ここだけで孤立して作業しているわけではありません。特にAIに関しては、ボッシュのような技術系企業は、自らをより大きな科学界の一部と考えています。たとえばドイツ国内では、私たちは、学術界と産業界のAI研究協力の取り組みである「Cyber Valley(サイバーバレー)」の創設メンバーとなっています。何より私たちはその一環として、AIセンターに約1億1,000万ドル以上を投入しています。2022年末からは、ボッシュはもちろん、外部のスタートアップ企業や研究グループから計700人のAIエキスパートがここで働くことになる予定です。

ここ米国において私たちは、AI研究に関してカーネギーメロン大学と緊密な協力関係を構築しています。カーネギーメロン大学は、黎明期から60年にわたってAIに取り組み、自動運転車両、顔認識、言語処理などの分野で先駆的なイノベーションに寄与してきました。

私たちは、産業界と学術界にはそれぞれに果たすべき重要な貢献があると考えます。さらに私たちは、大西洋の両側にいるボッシュの開発者同士の知識移転を高く評価しています。

ボッシュのAIをもとに、宇宙での異常を検知する「SoundSee」

米国のパートナーとの刺激的な協力の好例が今、地球の上空約240マイルにあります。

それは「SoundSee」と呼ばれる革新的なAIベースのセンサーシステムで、この小さなデバイスは、宇宙においても非常に大きな役割を果たそうとしています。「SoundSee」のテクノロジーは、ISS上で深層音響分析を行うために利用されます。高感度マイクロフォンを用いて、ステーションのシステムと機器から発せられる周囲のノイズを拾い、AIを利用して音声パターンから異常の可能性を見つけようとしています。基本的に、この「SoundSee」は、ステーション上の異常を音で検知し、修理または交換が必要かどうかを知らせることができます。

私たちは、このシステムを航空宇宙企業のAstrobotic Technology社と共同開発しました。11月には軌道に送られ、間もなくAstrobeeロボットに組み込まれる予定です。もちろん、新しいセンサーシステムは、地上においても大いに役立つはずです。たとえば、製造において機械のダウンタイムの予測を改善し、それによって保守費用の削減と生産性の向上につなげることができます。しかし、ISSの船内では、このテクノロジーは人命救助につながることにもなります。

バーチャルバイザー(Virtual visor) – 米国のアイディアがベストオブイノベーションに選出

私たちはここCESにおいて、米国チームの独創性あふれる事例を紹介しています。この技術は世界で初めて公開され、常識にとらわれない考え方を如実に示しています。ドライバーが頻繁に直面する危険に対するデジタルソリューションを思い付いたのは、ボッシュの複数のエンジニアたちで、その技術のもとになったのは、100年近く前からある自動車製品、サンバイザーです。Jason(ジェイソン)と彼のチームが、この最先端の新しいソリューションをどのように思い付いたのかを聞いてみましょう…

高速道路安全局の調査報告書によると、太陽のまぶしさは、他の天候条件と比べてほぼ2倍の事故を引き起こしています。私たちは、バーチャルバイザーが「Invented for life」テクノロジーのもうひとつの好例であるととらえており、CTA(Consumer Technology Association:全米民生技術協会)もそのように考えてくださったようです。この製品が、有名なCES 2020 ベストオブイノベーションアワードを受賞することになりました。こちらを私たちのブースにてぜひご自身で試してみてください。

3D車載ディスプレイ – 私たちの2つ目のベストオブイノベーションアワード

私たちの新しい3D車載ディスプレイも、CESベストオブイノベーションアワードを受賞しました。このアワードを2つも受賞することは、かなりの偉業と言えるでしょう。

車載ディスプレイは、一般に巨大なビジネスチャンスをもたらします。何といってもその市場規模は世界的で、2025年までに300億ドルへと2倍以上に広がることが確実とされているからです。アワードを獲得したボッシュのディスプレイは、アイトラッキングや3Dグラスなどの追加機能なしで完全に機能する、手頃なマルチビュー3D技術を使用しています。

その仕組みを説明するために、映画のことを少し思い出してみましょう。3D映画を見たことがある方もいらっしゃると思いますが、その技術は、より生き生きとした楽しい体験をもたらしてくれます。この3Dが車両の内部で活かされるようになると、同様のさらに役立つ機能を利用できるようになり、人間が情報をより素早く理解することも可能になります。ディスプレイの被写界深度では、アシスタンス システムからの警告や危険の警告といった重要な視覚情報をドライバーがより素早く把握できるようになっています。警告はディスプレイから飛び出すように見え、はっきり伝わり、緊迫感を感じさせるだけでなく、見落としもかなり少なくなります。Michaelさん、私はあなたのことをよく存じ上げないのですが、本当に注意を払う必要があるものを教えてくれる技術は、本当に素晴らしいと思います。

車室内モニタリング – 子供の安全にも貢献するテクノロジー

次に、疲労と注意散漫によってもたらされる危険について考えてみましょう。運転している時間が長くなり、コックピットにテクノロジーが増えれば増えるほど、危険が大きくなります。そうした場面で活躍するのが、ボッシュのドライバーモニタリングシステムです。このシステムでは、カメラがAIをもとにドライバーの視線、頭の位置、まばたきの頻度を認識し、こうした注意散漫を識別します。そして、危険な状況に達したとシステムが判断した場合には、自動車メーカーの要求仕様や法的要求に従って、警告音を鳴らしたり、ドライビングアシスタンス機能を作動させることができます。EUでは、この種のシステムが2022年以降から新車に標準装備されることになっています。このテクノロジーは、自動運転においても重要な役割を果たします。開発の次の数段階では、依然としてドライバーが注意を払い続け、危険な状況や複雑な状況になったら運転を引き継げる態勢でいる必要があるからです。 ドライバーが確実にこれを行えるよう、モニタリングシステムは、ドライバーがどのくらいの時間で対応できるのかを計算し、それに基づいて運転の責任を引き継ぐタイミングを決定します。

設計によっては、システムが車両のその他の乗員もモニターし、彼らの安全をしっかり守ることもできます。たとえば、乗員の座っているポジションの変化を検出した場合は、エアバッグとシートベルトテンショナーを最も有効に働くように調整できます。また、駐車された車両内の子供の存在を識別することも可能です。米国では2018年に、駐車車両内で50人以上の子供の命が奪われています。その原因は、予定よりも長く車内に取り残されたり、誰にも気付かれずに車内に入り込んだことによるものです。ボッシュの新しいシステムは、子供の存在を検知し、すぐに両親のスマートフォンに警告メッセージを送ることができ、緊急時には救急サービスに通報することも可能とします。米国の議会で現在Hot Cars Act法案が討議されていることが示すように、こうした悲劇を防ぐソリューションに大きな関心が寄せられています。繰り返しますが、私たちのテクノロジーは、生活をより良くするだけでなく、人命を救うことにも役立ちます。私たちは今後、車室内モニタリングシステムを拡張して車内センシングを組み込み、ライドシェアリングの保有車両に装備する予定です。この車内センシングが実現すれば、たとえば乗員がシェアードカーに何かを置き忘れたときや、危険な状況で助けを必要としているかどうかを検知することが可能になります。

私たちは、実際のメリットを提供することを重視しています。私たちのほぼすべてのドライバー アシスタンス システムは、安全性と利便性の両方を向上させることができます。私たちはこの分野における自動車業界のリーディングサプライヤーのひとつであり、2019年の売上高は12%増の約23億ドルに達しました。私たちは技術的な観点から、自動運転への足がかりとしてドライバー アシスタンス システムを活用しています。私たちは2022年までに、このテクノロジーの開発に約47億ドルを投資し、この分野専門のエンジニアを5,000人に増員する予定です。この目標を達成するために、私たちはLiDARセンサーの開発も大規模に進めています。AIを搭載した新しいビデオカメラ、レーダーセンサー、超音波センサーに加え、ボッシュは間もなく、自動運転に必要なセンサーの完全なポートフォリオを提供できるようになります。この分野でボッシュほどの専門知識を持つ自動車部品サプライヤーは、世界を見渡してもほぼありません。

ボッシュのLiDARは、拡張性に優れ、量産が可能な、車載用途に適した初めてのLiDARになります。 また、SAEレベル3~5の自動運転機能に適した初のLiDARテクノロジーでもあり、広い視野角と極めて高い解像度を両立させた長距離センシング性能を発揮します。このセンサーは、複数の種類を組み合わせることで、極めて信頼性の高い環境認識の実現に役立ちます。完全自動運転に向けて路上の多くの困難を回避できるよう、ボッシュはセンサーとシステムの専門知識をひとつにまとめようとしています。その専門知識は、自動車メーカーしか持つことができないような深いもので、私たちはそれをもとに、すでにさまざまな環境下で自動運転の実証実験を実施しています。その環境には、最後の未開拓地として広く認識されている市街地も含まれます。ボッシュとメルセデス・ベンツが、自動運転車両による自動運転配車サービスに向けたパイロットプロジェクトを立ち上げ、稼働していることをお伝えできて嬉しく思います。現在はSクラスの自動運転車両が、カリフォルニアのサンノゼ西部と都心部間を結ぶ、特定のユーザーを対象としたアプリベースのシャトルサービスを提供しています。このプロジェクトは、自動運転の開発のために有益な知見を得ることと、複合的なモビリティシステムにどのように自動運転車両を統合するのが最善なのかという問いに答えることを最終的な目標に掲げています。

このプロジェクトの開発作業には、AIの活用に加え、道路交通ではごく稀にしか起こらない運転状況にも対応できるようデザインされたシミュレーションとテストも含まれています。

私たちは、車両に運転方法を教え込むためだけにモビリティソリューションを活用しているわけではなく、車両の電動化とネットワーク化を実現するためにも利用しています。これにより、新たな事業分野を切り開き、新しいお客様とのパートナーシップを築くことも可能になります。たとえば私たちは、米国のスタートアップ企業であるNikola Motor社の大型トラック向けに水素燃料電池を開発しているほか、DiDiやLyftなどのモビリティサービスプロバイダーにもソリューションを提供しています。これによりDiDiは、車載バッテリーの寿命延長に役立つクラウドサービスを間もなく提供できるようになる見込みです。未来の都市交通に関しては、ボッシュのブースのIoTシャトルコンセプトで私たちのビジョンを体験することができます。今年は、安全かつ効率的な自動運転ライドシェア・配車事業の運用を支えるために、私たちがモビリティサービスプロバイダーに提供しているものをご紹介しています。

ボッシュのMEMSテクノロジー – SFを感じさせない外見のスマートグラスに採用

私たちは今後、他の分野においても、モビリティに関するあらゆる専門知識をイノベーションの基礎として活用していきます。その好例が、マイクロエレクトロメカニカルシステム、すなわちMEMSセンサーです。私たちは、車載アプリケーションやスマートフォンに使用されるMEMSセンサーのマーケットリーダーであり、この分野における私たちの最新の開発内容をこのCESで紹介しています。そのひとつが、スマートグラス用のLight Driveシステムです。この種のものとしては最小クラスで、市販されている既存のシステムよりも3分の1ほど細身で、ほぼどのような種類のフレームにも組み込むことができるため、日常的にお使いいただけるメガネとなります。このシステムは、MEMSベースのレーザースキャナーとホログラフィックミラーを駆使し、装着した人の網膜に画像を投影します。この画像には、たとえばナビゲーションシステムや個人のカレンダーからの情報を含め、どのようなテキストメッセージでも含めることができます。そのため、メガネをかけるたびに、常に最新の情報を得られるようになります。また、それをかけていても、スタートレックコンベンションに向かっているように見られることはありません。

AIが大きなメリットをもたらす可能性のあるもうひとつの分野が、ヘルスケアです。CES® イノベーションアワードに選出された「Vivascope」と呼ばれる最先端のイノベーションを開発したのは、インドのエンジニア陣です。簡単に説明すると、これは医療診断用の小さな病理学プラットフォームで、最先端の機械学習アルゴリズムが組み込まれています。このシステムは、AIの支援を受けて人間の細胞の形状、輪郭、構造の偏移を分析し、考えられる病気についての情報を医師に提供します。しかも、これを数分で行うため、検査の過程が劇的に短縮されます。健康問題をより早く、より正確に診断できるよう手助けすることも、私たちの考える「Invented for life」のテクノロジーなのです。

すべての人に恩恵をもたらすAI・IoT – 明日の仕事のためのトレーニング

私たちは、IoTとAIがすべての人に恩恵をもたらすべきだと考えています。そのためには、技術的な仕掛けにとどまらず、実際に人々の日常生活と仕事の負担軽減につながらなくてはなりません。このことは、私たちのすべての分野、つまりコネクテッドモビリティ、コネクテッドホーム、およびコネクテッドインダストリーにも当てはまります。特に製造業界において、AIは人間の創造性を補完することができ、さらに決定的なこととして、労働者をルーチン作業から解放することができます。

どのような新しい道を歩むときも、私たちは従業員とともにあります。私たちは、未来の工場を作り出そうとしている中でも、未来の仕事を行えるように従業員に備えてもらいたいと考えています。これが、冒頭で触れたAI研修プログラムにつながっており、プログラムは大きく3つに分かれます。

まず、約1万6,000人の管理職にAIのビジネス面に関する研修を受けてもらいます。私たちはデジタル革命によって、 産業企業であり続けるとともに、IoTおよびAIのトッププロバイダーになりつつあります。そうしたなかでは、私たちのリーダーが正しい決定を下せるようにならなくてはなりません。管理職にAIの専門知識を習得してもらうのはそのためです。

2つ目として、AI学習プラットフォームの拡充を目指します。このプラットフォームはオンライン大学のようなものですが、ボッシュの実際の仕事に基づいた事例と演習を使用して行います。 すでに1,500人以上のエンジニアがこのプラットフォームを利用しており、来年までにその数は2倍に達する見込みです。AI学習プラットフォームの大きな特徴として、経験を容易に交換できること、ベストプラクティスの事例と競争を取り入れていることが挙げられます。

3つ目は、AI開発手法に携わった経験がある約500人のエンジニアに研修を受けてもらいます。これは最高難度の研修プログラムで、データエンジニアリングやデータ分析などを効果的に学習できる追加コースです。私たちは、外部からAIエキスパートを招くだけでなく、現従業員のスキルを磨くことでも、AIエンジニアの人数を増やしたいと考えています。

これによって、計2万人の従業員がこのテクノロジーを理解できるようになる見込みです。私たちがこうした研修を実施するのは、企業責任の一環というだけでなく、私たちの戦略にもかなうと考えるからです。

結論

AIの開発にあたって重視すべきは、技術革新だけにとどまりません。人間の知識に重点的に投資する必要がある一方で、このテクノロジーの真の可能性を人々に理解してもらう必要もあります。「有益なAI:テクノロジーに対する信頼性を共に構築」 – 私たちがCES2020で使用しているスローガンは、単なる響きの良いキャッチフレーズではありません。私たちは、AIが私たちの日々の生活に安全性と利便性をもたらし、より環境に優しいものにするカギを握る存在であると確信しています。セントラルホールの私たちのブースに立ち寄り、そのいくつかの例の実演をぜひご覧ください。そして一緒に疑念を払いのけ、AIが主役となってサイエンスフィクションが現実になる新しい時代の到来を感じましょう。

ご清聴ありがとうございました。


このプレスリリースは2020年1月6日に Robert Bosch GmbH より発行されました。
原文をご覧ください。